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俳優舘ひろし(70)は年齢を重ねるごとに、魅力が何層にも重なっていく。映画「ヤクザと家族 The Family」(藤井道人監督、29日公開)では、意外にも初めてやくざを演じ、存在感を放っている。昨年は敬愛する渡哲也さん(享年78)の死去、今年は石原プロモーションが業務終了した。転機とも言える出来事が続いたが、受け止め、気負わず、しっかり自分の道を歩んでいる。
★デビュー45年自信作
舘は「おう、今日はよろしくね!」と、記者やカメラマンに声を掛けながら部屋に入ってきた。「(映画)見てくれた?」という声の調子に、自信が垣間見える。俳優デビュー45年の記念の年、始まりを飾るのが「ヤクザと家族 The Family」だ。やんちゃな役柄のイメージがあるが、意外なことにやくざ役は初めて。
「『地獄の天使 紅い爆音』(=77年公開)の時は、元やくざだった。だから、やくざは初めて」
組長・柴咲を演じる上で、自分でも気付かないうちに参考にしていたのが、昨年8月10日に亡くなった渡哲也さんだという。渡さんは経験豊富だった。「仁義の墓場」(75年)など名作も多い。
「やっぱりどこかで、渡さんだったらどうやるんだろうって。すごく意識したわけではないんだけど、知らないうちに同じ芝居をしてたかな。豹変(ひょうへん)する場面とかね」
79年に初めて渡さんに会い、ずっと「お館(やかた)」と呼んで敬愛してきた。ずっと近くで見てきた普段の渡さんも役に投影させていた。柴咲という組長は、懐が深く、厳しさと優しさを併せ持ち、謙そんしながらも堂々とした人物像だ。主演の綾野剛(38)が演じる山本との場面を引き合いに説明した。
「柴咲のモデルって渡さんだった気がする。意識してなかったけど。渡さんだったらこう言うだろうなっていうのがあるじゃない。拉致された山本が解放されて会った時、柴咲が『お前、えらく頑張ったらしいじゃないか』って言うんだけど、渡さんが言いそうでしょ。山本が出所した時も、薄っぺらな祝儀を渡して『ごめんな』って。多分、やくざはそんなこと言わないと思うんだよね。知らないうちに渡さんを演じてたような気がする」
こんな風にせりふを言いたいと、藤井監督に相談しながら作っていった。採用されなかったものも、採用されたものもある。舘は「迷った時、渡さんならどうするかを考える」とよく言う。後で考えたら渡さんっぽいな、というせりふが作品に残った。
★若さに迎合なんか…
34歳の藤井監督との仕事も刺激的だった。じっくり撮る撮影方法も楽しめた。
「今までは撮影所育ちの監督との仕事が多かったんです。最近、いわゆる自主映画を撮ってきた監督とのお付き合いが多いんですが、おもしろいですね。藤井監督とカメラマンは、学生の時からずっと一緒にやってるんですよ。サイズやカメラのムーブメント、2人が分かり合っていて本当にすばらしい。何テークも撮るんです。きっと渡さんだったら嫌がるんだろうな、『何回やらせるんだよ』って(笑い)。僕はあまり自分の仕事に自信がないので、何度も撮られるのは気にしないんです。現代、今がある映像になっていますし。やってて楽しかったです」
若さをリスペクトする気持ちは、自分がたどってきた道だからこそだ。
「『今の若い子は…』っていう言葉、大嫌いなんです。若いころは全員にあったんだから、今の若い子は…と否定することは、自分を否定することになる。自分が若い時、何で分かってくれないんだと思っていた気持ちは、まだ僕の中にあるんです。(映画の現場でも)みんな本当に勉強熱心だし、映画少年がそのまま大きくなって、変な忖度(そんたく)がない。若さって単純にすばらしいし、力強い」
「ただ、」と舘が付け加えた。
「だからといって若い人に迎合することはないですね。僕は非常に保守的だし、古いしきたりも好きな方。若さを否定することはないけれども、迎合することはないということです」
どんな相手にもフラットに対応する姿勢が魅力的だ。キャリアを大上段に構えることもない。
「デビュー45年? 嫌んなっちゃうよね。だんだん偉そうになってきちゃってさ。困っちゃうよね」
出演映画は24作目。キャリアを考えると多くはないが、ここ数年は映画にシフトしたように見える。「終わった人」(18年)でモントリオール世界映画祭最優秀男優賞、ブルーリボン賞主演男優賞を獲得、「アルキメデスの大戦」(19年)では山本五十六を演じた。
「もっと映画をやっていきたいです。今2作、映画の企画、脚本を書いてもらっています」
16日、所属していた石原プロモーションが業務を終えた。石原プロを立ち上げた石原裕次郎さん、渡さん、長年同プロを裏で支えた小林正彦専務が持ち続けた映画製作への思いは、舘にもある。今後、新事務所を立ち上げ、映画への準備を整えていくつもりだ。
「裕次郎さん、渡さん、小林専務の夢は消さないでいたい。石原プロみたいに大作じゃなくてもいい。肩肘張らず、気負わなくてもいい。夢を引き継ぐなんて大仰じゃなくていい。映画への夢の灯を消さずにいたいだけ。いい映画が撮れたら、3人に報告したい」
かつて目指した医者や建築家の夢はかなわなかった。俳優になっても希望がかなうことはほとんどなかったため、やりたいことはあまり考えない。それでも映画への夢は明確に語った。
「映画を作るという夢の灯がかなえられるような体制は作っていきたい。いつ形になるかは分かりませんが、早々に始めたい。若い時も夢を追っていましたが、今は現実的に夢を追っています。一緒にやる人たちがいて、手段が少しずつ整ってきたからかな。ハードボイルドな映画は1つ作りたいね。今、映画と現実がどんどん近づいているから、もっとスタイリッシュで夢のあるものを」
気負いのなさのその奥に、舘のエンターテインメントのとらえ方が見えた。
「『あぶない刑事』『西部警察』なんてまったくやる気がなかった! やる気がない作品が成功してきたっておもしろいね。『パパとムスメの7日間』(=新垣結衣とのコメディードラマ)だってそう。でもあの作品のおかげで今の僕がある。エンターテインメントってみんなが楽しんでくれればそれでいい。使命感であまり身構えない方がいい。いいもの作って、どこかでみんなが楽しんでくれればそれでいい」【小林千穂】
▼「ヤクザと家族 The Family」の藤井道人監督(34)
舘さんは「役としてただ存在する」という言葉がぴったりな俳優でした。柴咲組長として、誠実に相手に向き合う姿にたくさんのことを学ばせていただきました。緊張で心臓が飛び出しそうになっていた若輩者の僕に対しても「監督、大丈夫ですか?」と労ってくださる姿に感銘を受けました。差し入れひとつの気遣い、スタッフの名前を覚えるスピードの速さ、せりふや動きも1つ1つディスカッションしてくださる舘さんの映画人としての姿勢を受け継いでいくことが僕の使命だと思っています。また優しくストイックな舘さんと映画を作れる日を夢見て、日々精進したいと思います。
◆舘(たち)ひろし
1950年(昭25)3月31日、名古屋市生まれ。75年、オートバイチーム「クールス」結成、レコードデビュー。76年、映画「暴力教室」で俳優デビュー。79年からテレビ朝日系「西部警察」出演。83年、石原プロモーション入社。ほか、ドラマ、映画「あぶない刑事」シリーズ、映画「免許がない!」、NHK「坂の上の雲」など。歌手としても「泣かないで」のヒットがあり、2回の「NHK紅白歌合戦」出演。高校時代はラグビーに打ち込んだ。19年ラグビーW杯ではPRキャプテン。20年、旭日小綬章受章。179センチ。
◆ヤクザと家族 The Family
山本(綾野剛)の父は薬物に手を出し命を落とした。山本は、偶然居合わせた柴咲組組長(舘ひろし)を襲撃から救う。居場所を与えてくれた柴咲と父子の契りを結んだ山本は、やくざの世界に足を踏み入れる。
(2021年1月24日本紙掲載)
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- 舘ひろし(2021年1月11日)
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